三浦ブログ

やばいぞやばいぞ

四天宝寺ホラーナイト9

「小石川が、死んだ」

千歳は携帯の画面を何度も見直した。

嘘だと言ってくれ、軽いジョークなんだろう。

いろんな考えが頭をよぎったがすべてに蓋をして

千歳は前を向いた。

 

 

 

 

 

白石はインターホンを鳴らすと

呼吸を整えた。

自分は果たして招待されるのか、否か。

白石は扉の開く音で顔をあげた。

若い男が立っていた。

 

 

「千穂はなんで死んだんでしょうか」

出されたお茶を見つめていた白石は突然の声に

きょどってしまった。

最初の犠牲者、中井千穂の兄、中井康人は仏壇の

遺影を見ながら話しだした。

「俺たちは特別仲がよかったわけでも悪かったわけでも

なくて、どちらかと言えば喧嘩もよくするし、腹が立つこと

だってよくあったんです」

でも、と康人は続けた。

「葬式のときは実感なんてなくて『あ、死んだんだな』ってぐらいだった

 のが、最近になって胸が痛むんです。あぁ、俺は悲しかったんだなって」

遺影をおいた康人はテーブル越しに白石の前に座った。

「話せることは何もありません。だけど、俺があなたに頼みたいこと

 があるんです」

白石はその強気な態度に若干気おくれしつつ、なんですか?と問いかけた。

「この町の、古老たちについて教えてほしいんです」

白石は思わず口を開けた。

「ここの土地神のことは知っていますか?

 まだそいつを盲信している老いぼれがいるにちがいない」

「ま、待ってください」

白石は両手をブンブンと胸の前でふった。

「間狩神と妹さんになんの関係があるんですか。」

「妹は、禁忌を犯したんだ」

「禁忌?」

「聖域に入ったのさ」

聖域、それはこの△△町のここから少し離れた神社に

ある、間狩神像が保管されている蔵のことだ。

寂れているのとその不気味な様子から近隣のものは

近づかないが、よく遠くから肝試しにくる奴がいることから

ちょっとした心霊スポットになっている。

 

だがその蔵には厳重な鍵がかけてある筈。

「妹さんはどうやって聖域に?」

「ほら、もうすぐ浪速祭りだ。蔵にある鍬が

 儀式には必要だろ?」

大昔、間狩神をこれにて倒したと噂されるその

鍬は二度と間狩神の再来がないようにと蔵に一緒に閉じ込めて

あるらしく、「悪鬼からこの町を守る」という演目で

浪速祭りにはちょつとした儀式に使われる。

「最近は少し管理がずぼらになってるからね。

 妹はすんなりと入って行った。」

「なんで、そんなことを」

「着けてたんだ。最近様子が可笑しかったから。

 だけど妹は何も持たずに出てきた。

 そしてその二日後、妹は死んだ。」

白石は頭を押さえた。訳が分からないことばかりで

頭が痛くなりそうだ。

「墓参りのとき、町内会のジジィが言ったよ、罰があたった

んだって。そういうことさ。あいつらは知ってたんだ。

妹が犯した罪を。」

 

 

千歳はある一つの結論に辿りついていた。

しかしそれを認めるのはあまりにも酷であまりにも絶望的すぎた。

遅かれ早かれ、いずれ明らかになる事実である。

だが、早く食い止めなければ被害者は増え続ける。

千歳は下唇を、強く噛みしめた。

 

 

「もうすぐ浪速祭りやで、財前」

金太郎は一人で墓石の前に座っていた。

「謙也も、小石川もおらんくなってしもたし。

 今年はどうすんねやろな」

 

あと、一週間後には浪速祭。

七〇〇年前この地を暗黒へと至らしめた悪鬼「間狩神」から

人々を守った英雄を崇める祭り。

チリン、と鈴の音が聞こえた。